ゆらり、ゆらり





嬉しくて涙を流す人間を、俺はそのとき初めて間近で目にした。






目の前の人物はくちびるをきゅっと結んだまま、見開いた目からぽろぽろと涙を零している。

その涙は限りなく澄んでいた。

彼の涙はこれまで何度か目にしたことがあるのに、そのどれとも違っていた。

いつだって感情豊かに泣いて笑う、賑やかな彼には似合わないような、

それでいてとても彼らしいと思うような、

きれいな、きれいな涙だった。



その綺麗なものに引き寄せられるように顔を近づける。

沢村はその様をぼんやりと眺めていたようで、 濡れた目尻にくちびるを寄せるとそこで初めて驚いたようにぎゅっと目を瞑り、その衝撃で更にぼろぼろと涙が頬をつたった。

零れた涙は、塩辛くてどこかやさしい味がした。



くちびるを寄せるだけでは足りなくて、そのまま腕を伸ばして抱き寄せる。

沢村は一瞬びくりと身体を強張らせ、それでも抵抗せずに腕の中におさまると俺の肩に額を乗せておずおずと背中に腕を回した。

肩口の濡れた感触で、沢村の涙がいまだ止まらないことを知る。

自分の告げた言葉にそこまで反応する彼が愛しくてならなくて、抱きしめる腕に力が篭った。



「俺も、お前が好きだ」


先ほど口にした言葉を、もう一度くちびるに乗せた。

今度は彼の耳元で。何度でも言いたい気分だった。

「だから、笑ってくれないか?」

笑って、さっき聞かせてくれた言葉をもう一度言ってくれないか?

抱きしめたままそう告げる。

沢村はぴくりと肩を震わせ、鼻をちいさく啜ると、額を肩口に押し付けたままで小さく頷いた。

そのままゆっくりと顔をあげる。 抱きしめたままの、自分が少し屈んだら額が触れてしまう程の近い距離。 こんなに近くに彼の顔があるのは初めてで、心臓がどきりと音をたてる。

こちらをまっすぐ見つめる彼の瞳は、水の膜をたたえて潤んでいて。

覗き込むように目を合わせると、ふわりと柔らかく微笑んだ。


「先輩のことが、好きです」


瞳を覆う水の膜が揺らめく。

ゆらり、ゆらり。

ぽろりと一粒こぼれ落ちた雫を、今度は指の腹で拭った。

うまれたての涙は思いのほか熱く、指先をじんと痺れさせた。





20080415

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こちらも「ストームライダー」のトウコさんからいただきました!!両思い!
わーん切な可愛い〜。




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